VUCA時代の企業価値向上フレームワーク

要旨

2025年を画期に、企業を取り巻く環境は、従前の想定をはるかに超える変化と不確実性にさらされています。

第2次トランプ政権の打ち出すMAGA(Make America Great Again)政策をはじめ、ウクライナ・ガザ地区の地政学リスクの高まり、急激な円安やインフレ、AIの急激な進化等、もはや外部環境を“Static(静的)”に捉え、前提を置くことができない時代となりました。

この変動・不確実・複雑・曖昧な、いわゆる「VUCA(ブーカ)」な世界において、企業は真の“価値”をどのように見極め、どう高めていくべきでしょうか。間違いなく申しあげられることは、従来の財務指標(PL/BS)のみでは、もはや適切な価値向上ストーリーの構築や、都度の状況判断・意思決定は難しくなってきています。

先進グローバル企業は“見えない競争力(非財務価値)”を軸とした新しい経営にシフトしています。2030年以後を見据えた経営・事業における骨太の羅針盤として、“企業価値”の構造を捉え直し、価値向上ストーリーを構築、現場への落とし込みと具体的なアクションロードマップを再定義することが重要な局面です。

1.VUCA時代の外部環境と従来型経営の限界

かつて経営はPDCAに代表される緻密な計画主導が有効に機能していました。過去実績/データに基づき、将来を予測し、詳細に計画を立て、その通りに実行するアプローチです。しかし、直近1年の外部変化だけを見ても

  • ウクライナ・ガザ紛争地域リスクの深刻化
  • トランプ関税&ディール交渉
  • 米騒動をはじめとした食料価格の高騰
  • AIの飛躍的発展
  • 気候変動の深刻化:“地球沸騰化”

と、100年に一度、または歴史上初のような事象が頻発する状況では、過去実績/データや、財務計画主導の経営では、今後の存続が覚束ないリスクに直面します。

それに応じて各ステークホルダーの企業に対する捉え方・期待も大きく変化しています。象徴的な例を挙げます。

(1) 投資家の視点:短期収益だけでなく「持続的成長」と「社会的価値」に着目

投資家は、単に「今期どれだけ利益成長したか?」だけでなく、「10年後も存続・発展する会社か?」、「社会課題を解決できる会社か?」という視点も加えた投資方針に変革してきています。それが責任投資原則とされるものであり、単に財務改善や利益を増大しただけでは、株価・PBR上昇は実現できなくなりました。日本のサステナブル投資残高は総投資額の6割超となり、右肩上がりで最高額をマークしています。

(2) 顧客の視点:利便性・価格だけでなく、価値観共感が選択基準に

B2B・B2C双方で「環境対応」・「人権配慮」・「コンプライアンス」への要請が強くなっています。優位性は商品/サービスの良し悪し、価格だけでは決まらず、企業理念・スタンスへの評価にも及んでいます。

(3) 社員・採用応募者の視点:働く目的は「給与」から「成長・社会貢献」へ

若手中心に“会社選び”における最大の判断要素は、「キャリアの成長」が重視され、また、大学生・大学院生を対象の就活調査では「パーパスを知ると志望度が上がる」と回答した学生が6割超となっています。

2. 新しい経営・事業モデル:“見えない競争力”が企業価値向上の鍵

「企業価値」の定義は、コーポレートファイナンスでは、「将来フリーキャッシュフローの現在価値(DCF)」・「時価総額+有利子負債」と、財務価値のみで構成されます。しかしながら、VUCA時代において、事業の持続的な成長やリスクの低減は、“見えない競争力(非財務価値)”に大きく依存するようになってきたと認識しております。

  • 人的資本
     イノベーションと競争優位の源泉であり、“筋の良い”新規事業や業務プロセスの革新は、多様な知見・文化・経験が交わる場で創出
  • 知的資本:
     知財/ノウハウの拡充は、競合企業の模倣困難性を高め、価格競争に巻き込まれずに、持続的な売上・利益の見通しが可能
  • 製造資本:
     設備・機械・ソフトウェア・データや、最近はAIの組み込み等により、高度化された製造資本は、付加価値の高い商品/サービス実現のカギ

VUCA環境下で求められているものは、企業がどのように価値を生み、財務価値につなげて成長するのか、持続可能性・模倣困難性も含めた「新しい経営・事業モデル」への転換&体現です。
「新しい経営・事業モデル」とは、財務数値ベースでPDCAを回すのではなく、財務価値に到達する“見えない競争力(非財務価値)”、および、そのドライバー(先行指標)の連鎖を整理・構造化し、“稼ぐメカニズム”を可視化&組織共有した上で、“見えない競争力(非財務価値)”&そのドライバー(先行指標)をベースにPDCAを行うことです。
例を挙げますと、

  1. ROIC(投下資本利益率)構成要素の先行指標明確化:
    売上高営業利益率、投下資本回転率をはじめとする構成要素に対し、各現場で認識された因果・相関関係に基づき、非財務KPI(NPS、離職率、重大インシデント件数 等)を関係付け
  2. 先行指標(非財務)と遅行指標(財務)に波及するリードタイム・度合を明文化
  3. 先行指標(非財務)に対し、目標設定の上、PDCAモニタリング

「新しい経営・事業モデル」への再構築無しに、VUCA環境下での企業価値向上は成し得ない時代になってきています。

3. 改革ロードマップとポイント

「新しい経営・事業モデル」への転換のための改革ロードマップと各フェーズでのポイントを列挙します。

フェーズ1現状棚卸し

  • 自社の“価値創造”構造を客観的、かつ多角的に把握
  • 財務(PL/BS/CF)分析だけでなく、”見えない競争力(非財務価値)”分析の実施
  • 社内(現場・管理職)聞き取りやベンチマーク調査によって、強み・弱み・リスク・機会明確化

フェーズ2:新経営&事業モデルのグランドデザイン

フェーズ1の結果から、「競争優位の源泉」・「改革インパクトが大きい領域」を定め、以下含むグランドデザインを実施します。

  • 「財務」&「非財務」連鎖体系可視化とKPI設定
  • 市場/顧客、および商品/サービスポートフォリオ再構築
  • 人財戦略再構築(採用・育成・評価・配置の抜本的見直し)DX・AIによる業務省人化/スピード&付加価値向上
  • 柔組織構造への転換

フェーズ3:(領域毎)新オペレーション設計&商品/サービス開発立ち上げ

フェーズ2を受け、戦略を具体的な施策・アクションにブレークダウンし、各現場での改革実行準備を行います。

  • “課題有”商品/サービスの企画・開発・調達・販売の見直し後の姿と移行計画策定
  • 採用・育成・評価・配置の具体的改革案と移行計画策定
  • DX/AI導入後の新オペレーションフロー作成と機能要件定義
  • 新組織/職階/職務分掌の具体新定義と移行計画策定 等

フェーズ4:(領域毎)新オペレーション&商品/サービス試行

部門横断型の推進チームを立ち上げ、フェーズ3の改革を試行します。

  • 見直し後の商品/サービス、及び、新しい企画・開発・調達・販売の試行
  • 新しい採用・育成・評価・配置の限定的試行
  • (上記を支える)DX/AI一部試行導入
  • 新組織/職階/職務分掌の限定的or兼務試行 等

フェーズ5:PDCA/価値創造サイクルの実装

改革を本格展開し、新しい新経営&事業モデルを現場に定着させます。

  • 目標指標を定量/定性両面で共有化、「経営会議→現場会議→個人評価」まで一貫した目標連動を徹底
  • 経営者自らが「なぜ財務×非財務が重要なのか?」、「自分たちの強み・将来ビジョン」を自分の言葉で語り、社内外に発信
  • 外部環境が大きく変化した場合は、簡易的にフェーズ1に戻り、“アップデート”

4.改革の障壁と期待効果

これまで30年以上にわたる経営~現場改革経験より、想定される障壁は以下5点が挙げられます。

  • 現状棚卸が部分的・断片的・主観的なものになり、真の改革の対象から外れること
  • ”見えない競争力(非財務価値)”領域の現状棚卸/評価が困難
  • 新経営&オペレーションモデルのグランドデザインにおいて財務と非財務の連鎖体系可視化が困難
  • 商品/サービス・人財・オペレーション・組織の戦略/施策が“当たり障りない”ものとなり、効果創出困難
  • 試行時の失敗が、即「取りやめ」となり、改革が断絶

上記の障壁さえ乗り越えれば、以下3点をはじめとする画期的な効果が期待可能です。

  • 利益率倍増(会社/事業によっては5~10倍も)
  • 従業員1人当たり売上の倍増(労働時間は削減)&処遇改善
  • 仕事内容の質向上による従業員エンゲージメント向上/採用での競争力強化

おわりに

これからの時代で生き残り、成長・発展するために、困難ではありますが、不可避な上記のような改革に対し、この度、当研究所は第三者、かつ圧倒的な改革経験を基に、以下例示のような企業価値の再定義に関する知見や支援を提供、“次世代に選ばれ、尊敬される会社”への変革に対し、貢献していく所存です。

  • “自社の価値創造力”を可視化する統合診断
  • 各社固有の「価値ドライバー特定」支援
  • 価値最大化に向けた戦略・実行プラン策定
  • 財務・非財務KPIの一体運用設計
  • サステナビリティ、DX・人的資本経営、ガバナンス強化等、専門家ネットワークを活かした“ピンポイント&フォーカス“支援
  • 経営層と現場をつなぐワークショップ、継続的な“伴走支援”による現場定着化

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