“ウェルビーイング”を飛躍的競争力に変えるための着眼点
要旨
“ウェルビーイング”という言葉は、いまや多くの企業で当たり前のように使われています。しかしその実態はどうでしょうか。「健康経営」、「リモートワーク」、「福利厚生の充実」・・・、確かに、これらの取り組みは重要ですが、それゆえ優秀な“付加価値人財”が応募し、定着してくれるのでしょうか。
労働市場の争奪戦が激化する中、従来型のウェルビーイング施策は、もはや“差別化要因”ではなく、“当たり前“化しています。特に、若手やハイパフォーマーほど、「働きやすさだけでは動かない」というのが各種調査で見られることで、彼らが求めているのは、自己実現/成長・働く意味/意義・多様な人生経験であり、これらのニーズと、企業が提供している職場環境とのGAPは、年々広がっています。そして、そのGAPを放置した企業から、静かに、確実に人財は去っていきます。
では、先進企業における“ウェルビーイング”の取り組みは、どのようなものでしょうか?
それは、「週休3日(週4日勤務)と高待遇を両立」するような“飛躍的な生産性向上を実現するエコシステム構築“にあります。徹底したICT・DX・AI活用によって、生産性を“非連続”なレベルで向上させ、その結果として生まれた余白の時間を休日に充て、社員が異業種含めた副業、大学院での知の深化・拡張、社会活動、創作活動等、自己成長の時間に投下できるようにする。そして、そこで得られた知見や視点が、本業に還流し、新規事業や新商品、イノベーションへと転化することで、個々の社員の力、そして企業全体の競争力が飛躍的に向上していくのです。この循環が回り始めると、“ウェルビーイング”は「人事施策」ではなく、「競争優位の獲得戦略」に昇華します。
合理的かつ創造的な「価値創出人財」を呼び寄せ、離さない――この“圧倒的なウェルビーイング戦略”で変革を成し遂げた企業こそ、人財の採用・定着化のみならず、事業競争力でも“一歩抜きんでた勝ち組”となる時代がやってきており、その“戦い”は既に始まっています。
1.『採用&定着化』の“今そこにある危機”
日本企業が直面する人材採用、および定着化の困難さは、かつてないレベルまで到達しています。最大の理由は、少子高齢化による労働力人口の急激な減少です。生産年齢人口(15~64歳)は、加速する少子化により目下の約7,300万人から、2040年代前半には6,000万人を下回り、現状から2割減が予測されています。既に、地方や中小企業では“働き手そのものが見つからない”非常事態が表面化しています。
では、そのGAPをどう埋めるべきか?「採用力」の強化と「離職防止」が不可欠ですが、その難度は年々高くなっています。加えて、世代交代による価値観の変化が、それに追い打ちを掛けています。特に、Z世代、ミレニアル世代は、「ワークライフバランス(WLB)の確立」、「意義ある仕事」、「自己実現」、「自己成長」、「社会貢献」など、従来の“会社第一&長時間労働”、“組織と一体”型の価値観と決別しています。
さらに、賃金上昇圧力と物価高という経済環境変化の中で、給与や福利厚生といった“処遇”も厳しく比較され、競争力の差は歴然です。同僚や友人、SNSを通じ、世間の動向・他社情報が得られ、各社のウェルビーイング施策も、もはや“当たり前化“で埋もれてしまい、差別化の武器になりません。
現実問題として、大企業ですら人材流出や新卒の応募者減に頭を悩ませています。中堅・中小企業では採用市場で苦戦し、いわゆる“人手不足倒産”が過去最多ペースで増えています。 一昔前とは、仕事や働くことの価値観が全く変容してしまった昨今においては、「人材=組織が選ぶもの」ではなく、「組織=人財から選ばれる」事態となっており、企業は、この現実に本気で向き合わなければ、存続すら危うくなっています。
2. 横並び“ウェルビーイング”の限界と英国社会実験のインパクト
多くの日本企業は、2019年施行の「働き方改革関連法」以降、「残業削減」・「有給取得推進」等、いわゆる横並び的な取り組みを積み上げてきました。しかし、実態としては「仕事量は変わらないまま、形式的に早く帰る」状況が生まれ、かえって不満や疲弊を招いた例も少なくありません。それ以外にも、顧客満足度の低下や、生産性ダウン等の弊害も発生しています。
昨今の“賃上げブーム”にも同じ課題があります。横並びの小幅な給与調整では、採用競争の武器にもならず、“人財”の奪い合いでは太刀打ちできません。特に、少子化・物価高時代の“人財争奪戦”で生き残るには、「労働時間の短縮」や「ストレス軽減」、「物価高に追随する賃上げ」といった“マイナスをゼロにした”職場の提案・提供では不十分です。
目下、求められているのは、“ゆるブラック(残業は少なく、心理的安全性もあるが、仕事のやり甲斐やスキルアップ、昇給、将来性も見込めない)な会社”ではなく、“市場価値が跳ね上がる会社”です。つまり、「圧倒的な生産性」の中で、社員自身の市場価値が最大化できる未来型の成長環境:「労働時間を減らしても」・「給与水準を維持・向上させ」・「競争力が高まる」といった、“従来の延長線上には無い経営モデルへの変革を推進する会社”が求められています。
その象徴的な先行事例が、英国「週休3日(週4日勤務)」制度の社会実験です。
■英国「週休3日(週4日勤務)」モデルが示す未来
2022年、英国で実施された「4 Day Week Global」プロジェクトは、61の企業・団体、約2,900人が参加した大規模実証実験です。その内容は、“給与100%維持・労働時間80%(=週4日)・生産性100%維持以上”を掲げ、半年間のトライアルを行いました。そして、驚くべき結果が報告されました。
- 9割超の企業が「実験後も週休3日化」を継続
- 従業員の離職率は約6割減少、採用も大幅強化
- 病気休暇、燃え尽き症候群とも約7割減少
- 生産性向上(売上・利益の維持または増加傾向)。
- 従業員満足度や心身の健康が大幅に改善し、職場エンゲージメントが飛躍的に向上
この取り組みにおける成功要因は、「どうすれば週休3日と高待遇が両立できるのか」という一見、相反する命題に対し、経営トップの前向きなサポートの下、外部の知見も取り入れ、職場の同僚・チームレベルで協力し、“仕事の質”向上に向けたアイデアや工夫をしたことです。
つまり、単に“休みを増やし、働き方を柔軟にするだけ”の発想から、“生産性と付加価値を極限まで高める新しい事業推進の方法や組織運営”への転換を、社員個々の努力ではなく、組織的に取り組んだことが成果創出のカギとなったのです。
3.「ウェルビーイングを競争戦略化し、価値創出人財を呼び込む」ための経営者アクション
では、価値創出人財を惹き付け、維持し、会社/組織の競争力そのものを向上させる「競争戦略としてのウェルビーイング」とは、どういうものでしょうか?
言わずもがな、単に休みを増やし、給与を維持/向上させるだけでは、ほどなくして業績悪化に陥るだけでしょう。「次世代・先進経営を先取りして競争優位な会社に生まれ変わる」という本気の改革アクションが必須となります。
①経営トップからの「未来経営ビジョン」のコミットメント
「高収入と成長機会(週休3日制含む)の両立」・「本業×副業×学びの深化・拡張で、個々の社員も会社も飛躍的成長」というインパクトあるビジョン/目標を社員に明示&宣言。
②”少数精鋭×価値最大化”の経営/事業モデルへの改革
別途テーマ「次世代の成長戦略:“少数精鋭× 価値最大化”」で記載した“経営者が取り組むべき抜本改革と外せないポイント”をベースのアクションとして実行。
加えて、
③タスク型マッチング&社員の多能工化
タスク別アサイメント等、スキル・希望・キャリア志向による動的な職務変更、兼務等の仕組みを導入、社員個々人の多能工化を図り、休日が増えても、チームでお互いにカバー/バックアップできる体制を整備。
④副業・学び・多様経験の“本業価値化”戦略推進
副業/勉学/社会活動でのスキル・知見・人脈還元を可視化・奨励。「新規事業提案」、「プロダクト開発」、「社内イノベーター表彰」等、社員に培われる異体験による創造力を、付加価値に転換できる仕組みを導入。
⑤上記②~④のパイロットPJを実施
本改革は、一足飛びに全社展開するのではなく、部門やチームを限定したパイロット実施から始め、成功事例を積み上げながら展開していくことが現実的。パイロットや、横展開の結果を受け、制度や運用を継続的に改善することも必要。制度導入後も、現場の声を丁寧に拾い上げ、課題を迅速に解決していくことで、制度の実効性と社員満足度を向上。
⑤成果を社外へ発信
上記の取り組みの成果を社外へ発信することで、価値創出人財に訴求。
おわりに
少子高齢化が進行する日本において、「人財の採用&定着化」は企業の存続を左右する最重要テーマです。「本当のウェルビーイング」とは、単なる“働きやすさ”の追求ではなく、「飛躍的な生産性向上」と「持続的イノベーション創出」が一体となった“企業競争力そのもの”であることを、先進事例は教えてくれます。
従来型の”横並び”的な待遇改善や福利厚生充実だけでは、もはや人材獲得&維持における競争力確保はできません。
「選ばれ・尊敬される会社になる」との強い意思の下、時流を読み、一歩先を行く“圧倒的なウェルビーイング戦略”の立案と実践は、人財の採用&定着化のみならず、事業/会社も一気に競争優位を実現する大きなチャンスと捉えられます。
当研究所は、圧倒的改革経験と第三者視点を生かし、次世代の経営・人財戦略に基づく、以下のような変革施策に対し、トータル/個別に伴走支援いたします。
・仕事の棚卸&仕分け(廃止・標準化・自動化設計)
・ICT/DX/AI導入を生産性KPIに直結させる構想策定
・タスク⇔社員マッチング&シフトスキーム設計
・多能工化ロードマップと高処遇(等級・評価・賃金)設計
・週休3日制含むウェルビーイング戦略実行の試行(PoC)から全社展開ロードマップ
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