企業価値を10年先まで向上させる“次世代組織スキーム”の条件
要旨
昨年・2025年は世界において各所様々に大きな変化が起こりましたが、今年・2026年も、“米軍によるベネズエラへの攻撃”で幕を開け、さらに、“中国による日本向けレアアース/重要鉱物輸出のさらなる統制強化”が報道され、昨年以上に“VUCA”な年と予感させる状況です。
このような外部環境の中、日本企業に従前から多く見られる階層型組織は、変化への追随や、変革スピード、競争力、ひいては企業価値を大きく損ねる大きな要素になっています。
本稿では、現下の環境における従前の組織モデルの課題を解説し、新しい組織モデルの本質や海外先進企業での成功事例を紹介します。
最後に、これら新しい組織スキームに日本企業が移行するための改革の要諦や、留意点を提示します。
1.従来型組織がもたらす競争力劣化
日本企業の多くは、高度経済成長期に形成された階層型組織構造を採用しています。この構造は、明確な指揮命令系統、専門化された部門分け、標準化されたプロセス、そして厳格な規則による管理を特徴としています。かつてこの構造は、安定した市場環境における大量生産・大量販売のビジネスモデルにおいて、効率性と品質の一貫性を確保するのに有効であり、その結果、「品質、改善、現場力、無駄の排除」が日本企業の強みとして世界で認識されるに至りました。
しかしながら、昨今のVUCA時代において、「効率化・無駄排除・統制強化」に重きを置いた日本型組織―すなわち、明確な指揮系統と減点主義・リスク回避に傾きがちな階層型組織モデル―の強みが裏返って弱点となり、かつ、目下では「形式主義の蔓延」、「過剰な承認プロセス」、「責任回避のための社内調整」といった“官僚組織の弊害”レベルまで深刻化しつつあります。
- 意思決定の階層化:稟議・根回し・会議体が増え、判断が遅延。現場は「決められないから進められない」となり、変化への追随が困難
- 過度なKPIと管理:測れるものが優先され、探索・実験が萎縮。数字合わせが目的化し、顧客価値から乖離
- 部門最適のサイロ化:担当組織ごとにサイロ化が進み、全社横断的な視点からの解決が困難。「前例が無い」、「規定外」といった名目で革新的な施策が握り潰されるケースが多発
- 失敗回避の文化:リーダー層がリスクを取らないことにより、現場のアイデアが活かされず、現状路線延長&課題対応の先送りが多発。変化への適応が後手に回りやすく、競争力が低下
こうした、いわゆる“官僚組織“化による変化への追随遅れは、競争力低下、成長投資余力の減少、エース人材流出、ヒラメ(上司の顔色を伺う)社員の増殖等の企業価値毀損スパイラルを生みます。
さらに厄介なことに、統制や効率の強化は短期的に“成果が出たように見える”ことです。
しかしながら、中長期的には競合に市場を奪取され、収益性が悪化し、事業撤退に至ったり、株価が”PBR(株価純資産倍率)1倍割れ”という形で、株式市場から厳しく評価されるに至ります。
投資家は、いかに目下の収益性が高くとも、変化に対応できない組織に将来の成長期待を持てず、将来的な「企業価値棄損リスクは高い」とみなします。
この“官僚組織“化は、”失われた30年“の一因でもあり、日本企業が今後、競争優位を確保するためには、次世代組織への移行が不可欠です。
2.代表的な新組織モデルと先進事例
昨今のVUCA環境において、従前の階層型組織構造の弊害を克服し、変化への迅速な対応、組織全体の生産性向上、イノベーション創出を強力に推進するために、世界の先進的企業では全く異なる組織モデルで経営/事業推進を行う事例が増えています。ここでは注目すべき3つのモデルを解説し、それぞれの特徴や成功事例を紹介します。
1. ティール組織
フレデリック・ラルー氏の著書『Reinventing Organizations』で提唱。ヒエラルキーを極力廃し、「存在目的(パーパス)」と個人の「全体性」、自律分散型の「自己組織化」チームによって組織が進化・成長し続けるモデル。
先進事例:Buurtzorg(オランダ)
在宅看護サービスを提供するBuurtzorgは、1万人以上の看護師が10〜12人のチームに分かれ、自律的に運営する組織構造を採用、市場シェアの一角を占める企業に成長しました。各チームが患者のケアから採用、スケジューリングまでを自律的に管理しています。管理職はほぼ存在せず、本部スタッフもわずか50人程度です。
この自律分散型モデルにより、患者満足度は業界トップ、従業員満足度も極めて高く、かつコストは従来型組織より大幅に低いという成果を実現しています。
2. ホラクラシー(Holacracy)
役職や階層にとらわれず、組織は「ロール(役割)」と「サークル(小単位のチーム)」で構成、トップダウンは極力排除され、徹底して権限委譲・意思決定分散がなされる「自己経営」型モデル。
先進事例:Zappos(アメリカ)
ホラクラシー導入の先駆者として知られ、現在はその精神を受け継いだ独自モデルを展開しているオンライン靴小売大手のZapposは、1,500人の従業員が在籍した中、伝統的な管理職を廃止し、数百のサークルで自律的に運営する形に転換、その結果、売上成長と、顧客サービスのさらなる向上、従業員が自分の情熱とスキルを最大限に活かせる職場文化の構築に成功しました。
3. DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)
ブロックチェーン技術の発展と共に生まれた「社長も管理職もいない」完全自律分散型組織。スマートコントラクトとトークン経済により、誰でも意思決定参加・運営に関与でき、透明性と俊敏性、市場ニーズへの適応性が極めて高いモデル。
先進事例:MakerDAO
暗号資産DAIの安定化を目的とするMakerDAOは、世界中の参加者がガバナンストークンを保有し投票によって重要決定を行う組織。2023年時点で管理する資産は世界最大級のDeFiプロトコルに達し、中央集権的な管理者無く、金融商品の開発と運用を実現。
新しい組織モデルの共通項と変革への第一ステップ
上記3つの新しい組織モデルに共通するのは、以下の特徴です:
- 目的中心 - 詳細な規則や上からの指示ではなく、明確な組織の目的が行動指針
- 分散型意思決定 - 情報と権限が組織全体に分散し、現場レベルでの迅速な対応が実現
- 透明性 - 情報が広く共有され、全員が全体像を把握した上で意思決定可能
- 役割の流動性 - 固定的な職位ではなく、変化するニーズに応じて役割が柔軟に変化
さて、企業規模問わず、伝統的に階層型組織を採用している企業が、一足飛びに“ティール組織”や、“ホラクラシー”、“DAO”へ転換/移行するのは、現実的には非常に高い、大きくは以下3点のハードルが存在します。
- 既存の業務慣行・評価制度・賃金制度の硬直性
- 既得権益・雇用安定への不安や抵抗感
- 企業規模や歴史ゆえのリスク回避指向、失敗を許容しない企業風土
したがって、上記阻害要因が有る中、現実的な「次世代型組織」への第一ステップとしては、いわゆる「“ジョブ型”(もしくは“プロジェクト型”)&“フラット組織”への移行」が有力なオプションであり、以下、特徴3点を示します。
A.「職務(ジョブ)」ベースで責任明確化
- 職務ごとにミッション・役割・成果定義を行い、担当者の自律的裁量を尊重
- 等級・役職と職務内容を切り離すことで、柔軟な人材流動やフィット感ある配置を実現
B.ジョブ横断のプロジェクト型チームの運用積極化
- 各ジョブ担当をフラットにアサインし、“兼務”や“クロスファンクション(部門横断)”を標準運用化
- 随時、内部公募や希望制によるアサイメント変更⇒異動の実施
- プロジェクトマネージャーを「仮想リーダー」として位置付け、権限を「部・課」等の固定組織から漸次移行
C.アサイメント・異動の頻度向上&兼務拡大による流動性確保&硬直性打破
- 一定期間ごとのアサイメント見直しを仕組み化(半年単位で柔軟運用)
- 兼務アサイメントの導入&拡大
3.“次世代組織スキーム”への移行における要諦
次世代組織への移行には、経営層の覚悟と、大胆なパラダイム転換が求められると共に、下記が“外せない”要諦となります。
①パーパス・存在意義の再定義&共有
- 組織の存在意義(パーパス)を再定義し、全社員が共感できる形で表現
- 短期的な利益追求を超えた、社会的価値創造を含むビジョンを提示
- このビジョンを基に、細かい規則や指示よりも「判断の原則」を重視
②情報の徹底的な透明化
- 現場が正しい意思決定を行うために、財務情報や戦略的意思決定の背景を含め、可能な限り情報を全社員と共有
- デジタルツールを活用した情報アクセスの民主化を推進
- 「知る必要がある」から「知りたい人は誰でも」へと情報共有の原則を転換
③権限移譲と環境整備
- 従来のポジションベースの評価指標を見直し、「役割」・「ジョブ」単位で裁量や責任を定義
- 権限委譲の前提となる「権限の枠組み」を明確に定義
- 安全に失敗できる環境を整備(例:中間管理職は「管理者」から「コーチ」へと位置付けを再定義)
④人材育成とマインドセット変革
- 新しい組織形態で求められる自律性、協働力、学習意欲を育むための研修プログラムを導入
- 管理職層に対しては、従来の「管理・統制」から「支援・促進」への役割転換を支援する継続的な教育を実施
- 反対意見を歓迎する文化を醸成
⑤評価・報酬制度の刷新
- 個人の成果だけでなく、チームへの貢献、組織の目的達成への寄与
- 学習と成長への意欲などを多面的に評価する仕組みを構築
- 固定給と変動給のバランスを見直し、チーム全体の成果に連動する報酬設計を検討
- 年功序列から能力・貢献度重視へ段階的に転換
留意点:よく有る落とし穴
本改革を実施する際に“よく有る落とし穴”を以下に列挙します。
- 「自律」を掲げながら、結局トップが口を出して信頼喪失
- 現場に情報・権限・スキルが不足したまま委譲し、炎上
- 評価制度が旧来のままにより、新しいことに挑戦する人の評価が悪化
- 制度導入が目的化し、パーパスが曖昧
これらの回避には、パイロット試行(特定部門・新規プロジェクトから開始)&段階的ロードマップによる移行が有効です。
おわりに
昨今の投資家や株式市場が経営者に期待する事項も変化しています。
財務諸表(BS/PL)の健全性・向上だけでは不十分で、「昨今の予期せぬ市場の変化に対して、どれだけ迅速にビジネス/オペレーションモデルをピボットできるか」というレジリエンス/変化対応力や、「継続的にイノベーションを生み出す仕組みを構築しているか」という組織が新しい価値を創造することで、将来キャッシュフローの確実性を担保する指標として重視され始めています。
つまり、次々に押し寄せる変化に適応し、次なる収益機会に変えられる組織こそが、次なる時代の覇権を握るのです。
また、Z世代をはじめとする若手社員からすれば、伝統的な「階層型組織」は、“タイパ(タイムパフォーマンス)が悪く、不合理で、息苦しい”システムと映ることが多く、「ジョブ型(プロジェクト型)&フラット組織”は、「フェアで、合理的、かつ心理的安全性が高い“と感じやすいモデルです。
つまり「次世代に選ばれ、リスペクト(尊敬)される」会社の要素の1つに、“次世代組織スキーム”への移行がカギとなっているのです。
一方で、次世代組織への移行は、決して一朝一夕に実現できるものではありません。
理念や制度だけで進むものではなく、現状の組織構造・意思決定・評価・人材・ガバナンスを一体として捉え、効果を創出する形に落とし込む必要があります。
加えて、改革は社内政治や既得権、現場疲弊、短期業績圧力とぶつかります。そして、部分的な制度導入では逆効果となるリスクもあります。これらを乗り越えるには、経営者の意思だけでなく、実行可能な設計と運用が欠かせません。
当研究所は、第三者視点/立場ならでは、の以下をはじめとする“次世代組織”移行と、変化対応パフォーマンス高度化に関する知見や伴走支援を提供・貢献してまいります。
- パーパス・ビジョンの再定義
- 組織文化・仕組み変革
- 試行含めた段階導入アプローチ設計
- 経営層・現場双方へのワークショップ
- 社員への1on1コーチング
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